トレーラーのブレーキが作動するシンプルな仕組み

トレーラーにもブレーキが装備されている。けん引車がブレーキをかけて減速すると、後ろのトレーラーは前のけん引車に追突する状態になるが、このときの慣性を連結部のヒッチで受け、生まれる反力によりトレーラー側のブレーキケーブルが引っ張られてブレーキが動作する。この機構をオーバーラン装置と呼び、なんら電気的な助けを必要としないことから、機械式ブレーキと総称される。

これに対して、けん引車の減速で生まれる慣性を電気に変換し、トレーラーのブレーキに組み込まれた電磁石に吸着力を発生させてブレーキを動作させる方法が電気式ブレーキで、アメリカのトレーラーに多く採用されている。

わが家のトレーラーの場合は機械式ブレーキで、連結棒(ドローバーまたはトゥバーなどと呼ばれる)の頑丈な大径パイプの中にオーバーラン装置が仕込まれている。
慣性という自然の力を利用する部分だからスムーズな動作が要求され、グリス補給は欠かせない。私の場合、出発前にグリスガンを用いて隙間から古いグリスが少し出てくるまで給脂するようにしている。

トレーラーに使われるブレーキのほとんどはドラムブレーキである。ブレーキ・シューがブレーキドラムの内側に押し付けられて制動するという仕組みは自動車のものと同じ。しかしトレーラーにはこれ以外にもシンプルで驚くべき機能が備わっている。

[その1]トレーラーをけん引してバックするとき(キャンセル機構)

走行中にけん引車が停止すると、後ろのトレーラーはけん引車を押し、トレーラーの機械式ブレーキが動作する。続いてけん引車がバックしようとしても、トレーラーのブレーキがかかったままだからバックできなってしまう。止まっていたけん引車が後退を始めた場合も、トレーラーのブレーキが動作し同じ状況に陥る。これでは車庫入れもできず不便である。
そこでトレーラーには、後退時にブレーキを強制的にキャンセルする仕組みが備えられている。
トレーラーのブレーキが動作すると、ブレーキシューがブレーキドラムの内側に密着する。そのままの状態でけん引車がバックを始めると、ブレーキシューは引きずられ、ある位置で「トランスミッション・レバー」という装置を押すことになり、ブレーキを自動的に解除するのである。
 (説明図

 [その2]トレーラー単体で駐車しているとき

後退時にブレーキをキャンセルする機構は、トレーラー単体の駐車では不都合を生む。駐車しているトレーラーが後ろに動き始めたら、ブレーキがキャンセルされて暴走し、事故になってしまうからだ。
しかし、けん引走行中と駐車中で大きく異なる点が一つある。単体で駐車しているときは「トレーラーの駐車ブレーキのレバーを引いている」。ブレーキのかかっているトレーラーが後退方向へ動くと、けん引しているときと同様にブレーキシューが引きずられ、ブレーキは自動的にキャンセルされる。その瞬間、ブレーキワイヤーが緩んで僅かな遊びができる。駐車ブレーキのレバーには、この遊びを補うようにレバーをより大きく押し上げる非常に強力なダンパーが仕組まれていて、ブレーキがさらに強力にかかるのである。もちろん、駐車ブレーキを引き忘れていた場合はこの仕組みは機能しないので注意しなければいけない。 (説明図

勝手に前進方向へ動き始めたときは、ブレーキのキャンセル機構は働かないものの、ブレーキがきいたまま前進することによって、ブレーキシューがブレーキワイヤーの遊びを作る方向へ引きずられるので、駐車ブレーキのレバーが押し上げられて、さらに強力にブレーキがかかり制動力が増す。
実験するとわかるが、駐車ブレーキのレバーを引いたままけん引して前進すると、駐車ブレーキのレバーは際限なく持ち上がって制動力が増す。(やり過ぎると、レバーがトレーラー前面の壁に突き刺さるので注意!)

前進方向での制動力ばかりに気を取られて調整したため、車検には合格したものの、出先でバックできなくなったという苦い経験をしたことがある。トレーラーのブレーキには、このような仕組みがあることも念頭において、適切にメンテナンスしなければならないのである。

《関連法令》道路運送車両の保安基準の細目を定める告示

第8条 (牽引自動車及び被牽引自動車の制動装置)

4 牽引自動車及び被牽引自動車の制動装置(被牽引自動車の制動装置であって当該被牽引自動車を牽引する牽引自動車と接近することにより作用する構造であるもの(以下「慣性制動装置」という。)を除く。)は、走行中牽引自動車と被牽引自動車とが分離したときに、それぞれを停止させることができる構造でなければならない。ただし、車両総重量が1.5t以下の1軸を有する被牽引自動車(セミトレーラを除く。)で連結装置が分離したときに連結装置の地面への接触を防止し、牽引自動車と被牽引自動車との連結状態を保つことができるものにあっては、この限りでない。