ブレーキの開放点検(機械式慣性ブレーキの場合)

トレーラーは、エンジンやステアリングを備えていないため、車検においては検査項目も数が限られ、高度な知識を持ち合わせていない一般人でも、比較的とっつきやすい。 車検場へは、車検証記載の牽引車でトレーラーを連結したまま持ち込み、 多くの場合、検査官の前でトレーラーのタイヤをロックさせる、という事が行われるようである。


タイヤを外して、ブレーキドラムとご対面

ブレーキの開放点検を実施するにあたっては、必ず平坦な場所にトレーラーを設置して輪止めを使い、 さらにアクスルスタンドとトレーラーの安定ジャッキを併用て 十分な暴走対策を行い安全を確認してから、トレーラーの駐車ブレーキを解除する。駐車ブレーキを解除しておかないと、ブレーキを開放することはできない。


取り外したタイヤの5本のボルト

タイヤを外したら、ドラムの中心にあるグリスカップを外す。たいていグリスカップは固く嵌め込まれているので、 ノミのような鈍角の刃物をグリスカップの耳とドラムの隙間にあてがって、円周状に丁寧に叩きながら、 少しずつ浮き上がらせて外す。
外れたら、グリス・カップ内のグリスの減り具合や変色(黒ずみは発熱、白濁は水分混入)を観察しておく。


グリス・カップを外します

古いタイプのトレーラーのハブ・ナットは、緩み止めとして割りピンが使用されている。 割りピンは原則として再使用禁止であるが、私は丁寧に外して数回再使用している。 最近のトレーラーは、 ナイロンのベロで緩み止めされるハブ・ナットが使われているが、その場合は再使用は厳禁とのこと。


ハブ・ナットを外したら、ドラムを手でしっかり押さえ、 前後にガタつかせながら、少しづつ引き抜く。 その際、中央の穴の中にあるベアリングを指で押さえておかないと、 ドラムが外れた際に抜け落ちてしまうので注意が必要。ドラムを外したら、ハンドブレーキレバーは決して操作しないように。


取り外したハブ・ナットと割りピン

開放してライニングの黒い摩耗紛などをウェスやブラシで清掃。各部の異常摩耗や亀裂の有無などを目視で点検し、ライニングの厚みを両端と中央の3箇所で計測 して点検記録に記載。なお、タイヤを付けたままでも、バックプレートの裏の小穴から厚みを見られ るが、詳しい計測は不可能。


ドラムを外したところ

ドラムを元に戻し、 ハブ・ナットを軽く止まるまで締め付けたら、僅かに戻して緩め、 ハブ・ナットの切り欠きと割りピンの穴の位置を合わせる。 力まかせに締め込むと、ベアリングに無理な力が加わり、破損や固着を招く。
ナットの周囲やグリスカップにグリスを充填したら、グリスカップをしっかり嵌め込む。 そしてタイヤを取り付ける。


グリスを詰め込みます

ここから、ブレーキの調整に入る。小さなマイナスドライバーを用意。
トレーラーの下にもぐり、タイヤの裏側のバックプレートを覗くと、緑色のプラスチックの栓が2つ見える。
外側の栓はライニング確認用のもので、 その隣り、内側の栓を外すと、ブレーキのアジャスターにアクセスできる小穴が出現する。
マイナスドライバーでアジャスターを増加方向へいっぱいに回しならが、タイヤを手で前進方向へ回して抵抗を感じるようになるまで締め込む。


バックプレートの裏側

緑の栓の横には刻印がある。刻印の矢の方向が、 ブレーキの効きが増加する方向を示している。
アジャスターを、タイヤが手で回らなくなるまで締めたら、2〜3ノッチぶん、減方向に戻し、タイヤが手で回り始めるまで緩める。


緑のキャップの横に矢印の刻印

次に、ブレーキロッド後端のバランスバーをチェックする。ハンドブレーキを引くと、ブレーキケーブルが5〜8mm伸びるように 、ブレーキケーブルのロックナットを調節する(これはダブルナットになっている)。
何度かハンドブレーキを引いてなじませてから、再びバランスバーとケーブルの動きをチェックする。


中央のバランスバーの向こう側に、ダブルナットがある

ブレーキロッドのサポートブラケット(トレーラーのフロアに固定されている)に異常がないか確認する。 (ブラケットが正しく設けられていないと、 トレーラーの振動でブレーキ・ロッドが踊り、ブレーキが誤作動してしまう)

最後に、牽引して制動テストを行う。安全な場所で、発進したらすぐ急制動を行い、トレーラーの両輪が同時にロックすることを確認する。ロックしなかったり、片効きになっていたら、ブレーキの再調整を行う。
テストを数回繰り返して調整を行えば、ブレーキが馴染んで、良い結果が得られる。